このたび、関係各機関における審議ならびにパブリックコメントによるご意見募集を経て、「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」を日本外科学会と日本解剖学会の連名で公開できる運びとなった。本ガイドラインは、日常臨床の現場において手術手技などの高度の医療技術の訓練と習得が困難になりつつある現状を踏まえて、現状の法制度のもとでの遺体の卒後教育への利用の可能性を模索するために、日本外科学会が中核となって組織した平成20年度から22年度までの厚生労働科学研究による研究班の研究成果を基盤としたものである。この研究班の班長として、ガイドライン策定の基盤を作り上げた近藤 哲先生は、3年間の研究成果の報告書がまとまろうとしているまさにその時に病魔に襲われ、志半ばにして夭折されたが、日本外科学会は、この研究成果をガイドラインとして結実させるべくガイドライン検討委員会を立ち上げ、数多くの関係諸機関や行政との協議、意見交換を経て、公開のための原案をまとめ、さらにパブリックコメントを求めたうえで、厚労科研費による研究班立ち上げから4年を経て、ようやくガイドラインとして公開するに至った。
従来、現行法のもとでは、医学教育を目的とする解剖実習以外の研修などに遺体を利用することについて明確な指針などはなく、たとえ医療上の有用性が認められる研修などであっても、常にその違法性が問われる可能性が否定できなかったと言える。今回公開された「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」は、違法性を問われない遺体の利用とはどういうものかを明確に指針として示したものであり、わが国の遺体を用いた研究や医療技術の修練において大きな前進をもたらすものと考えられる。
このガイドラインを作り上げるにあたって、その土台を構築した故近藤 哲先生を始めとする厚労科研費による研究班の皆様、多くのご意見を頂戴した関係する数多くの機関ならびにパブリックコメントをお寄せいただいた皆様に、日本外科学会ガイドライン検討委員会委員長として、この場をお借りして心よりお礼を申し上げる次第である。 |