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 新型コロナウイルス感染症パンデミックの収束に向けた外科医療の提供に関する提言
2020年5月22日
 
新型コロナウイルス感染症パンデミックの収束に向けた外科医療の提供に関する提言
 
一般社団法人日本外科学会 理事長 森 正樹
一般社団法人日本消化器外科学会 理事長 北川雄光
特定非営利活動法人日本胸部外科学会 理事長 澤 芳樹
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会 理事長 横山 斉
特定非営利活動法人日本血管外科学会 理事長 古森公浩
特定非営利活動法人日本呼吸器外科学会 理事長 千田雅之
一般社団法人日本小児外科学会 理事長 田尻達郎
一般社団法人日本乳癌学会 理事長 井本 滋
一般社団法人日本内分泌外科学会 理事長 鈴木眞一
一般社団法人日本内視鏡外科学会 理事長 渡邊昌彦
 
本提言は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック後の通常の外科医療再開を目指し、外科医が取り組むべき点について日本外科学会の示す基本方針である。
 
本学会より4月1日にCOVID-19パンデミック下の外科手術に関する提言を発出後、4月16日には緊急事態宣言が全国に向けて発令され、一部の地域では医療崩壊が生じ病院によっては手術の大規模な中止・延期を余儀なくされた。その後の市民の外出自粛の効果で感染拡大が緩やかとなったため、5月14日の段階で39県では緊急事態宣言が解除された。今後、各施設において第二波の発生を予防しつつ中止・延期された手術および新規の予定手術が施行できる体制を速やかに構築していく必要がある。
 
COVID-19パンデミックが待機手術に与えた影響を検証すべく、日本も参加した世界71ケ国、359病院を対象に行われた大規模調査によると、日本全国では本年3月下旬時点で向こう12週間に本来行われる予定だった大腸・上部消化管/肝胆膵・泌尿器・頭頸部・婦人科・形成外科・整形外科・産科領域の手術のうち約140万件(全体の73%に相当)が中止・延期されたと推定される(このうちがんは約9万8000件でキャンセル率30%、良性疾患は約125万3000件・同84%)(1)。この論文によればこれら本来行われる予定だった手術をすべて実施するには、パンデミック以前の手術実施体制を20%強化した場合であっても45週かかると試算されている。パンデミック収束のめどが未だはっきりとは立たない中、感染拡大に最大限の注意を払いつつ、各施設はもちろんのこと各地域および全国レベルで協力しつつ手術を必要とする患者に適切な外科医療を提供することが急務である。
 
本提言は待機手術の本格的な再開に向け注意すべき事項(5項目)をまとめたものである。さらに術前後の5つのフェーズに留意すべき用件を提示した。海外の学会ガイダンス(2-4)を参考に、医療従事者を感染と過大な肉体的・精神的ストレスから守ることを最優先しつつ、安全・確実な予定手術の再開と十分な外科医療を継続的に提供するためにまとめられた。重要なことは、各施設内での足並みをそろえるべく外科系各科・麻酔科・看護部から構成される手術のあり方を検討する委員会(名称例:「○○病院手術のあり方委員会」)などを設立し、施設内での基準を統一し、全病院を挙げての取り組みの一環として入院・外来を含めた手術全般のあり方について対応することが望まれる。なお、この内容はCOVID-19の感染蔓延の情勢、病態解明、治療の進歩により適宜見直していくべきものであることを申し添える。
 
1.
予定手術再開のタイミング:
 
各地域での新規感染者数の発生が最低2週間にわたり減少傾向を維持
 
医療資源(スタッフ・手術室・ICU・一般病棟・検査室・個人防護具(personal protective equipment:PPE)・人工呼吸器・手術器材・薬剤・滅菌・施設の清掃など)が十分に確保されているもしくは確保の見込みがある
 
各地域の医療行政との緊密な連携が保てている(最新の感染状況を把握し第二波発生時には速やかに対応できる準備)
 
2.
COVID-19感染の有無の確認:
 
各地域での感染蔓延状況に応じ、術前患者の自宅待機要請・PCR検査*などの実施の適否および実施時期・頻度・そのほかの追加検査についての施設方針を確立する
 
*PCR検査は各地域での有病率(検査前確率)・実施可能な検査数・結果判明までの時間を勘案して対象患者を決定すべき
 
各地域での感染蔓延状況に応じ、手術に関わる医療従事者に対する検査および感染防護対策の施設方針を確立する
 
COVID-19感染が判明、または検査の結果待ちの患者および医療従事者への対応を定める
 
3.
感染拡大の予防:
 
十分なPPEの確保と手術室内での適切なPPE使用基準の設定および使用方法の周知徹底
 
COVID-19陽性および疑い患者に対し、手術以外の治療法や手術延期の可否の検討、エアロゾル発生による感染リスクが高い手術手技の回避・予防、医療資源の有効活用を念頭に置いた術式選択、麻酔科との協議のもと気管内挿管・抜管時の最小人数での施行を考慮
 
COVID-19陽性および疑い患者と陰性患者の手術室・ICU・一般病棟・動線を明確に分け、手術器材や薬剤の保管場所、患者ケアにあたる医療従事者も可能な限り区分する
 
術後の有症状患者に対するPCR検査を始めとする検査方針の確立
 
4.
手術スケジュールの再構築:
 
COVID-19パンデミックによって中止・延期された予定手術の正確な記録の作成
 
外科系各科・麻酔科・看護部から構成される委員会で、患者の病態(がん、心血管系、臓器移植、致命的臓器形成不全、外傷など)と施設および各地域の医療資源の確保状況によって、手術の優先度および実施件数の目標を設定
 
手術に関わる診療科と部署の実施体制に応じた手術実施可能な時間の延長(夜間・休日など)
 
特殊な感染対策下で働く外科医を含めた医療従事者の過重負担を避けるための柔軟な診療体制の検討
 
5.
患者との良好なコミュニケーション:
 
少なくとも下記の10項目を網羅した内容が確実に理解されることが望ましい
 
各地域の感染蔓延状況と患者の病態に応じた公正かつ中立なルールに基づき、全ての患者に対し適切な外科医療が確実に行われること
 
COVID-19と手術に関する正確な情報提供
 
術前患者の自宅待機要請およびCOVID-19感染の有無の検査方針
 
手術患者のPPEを始めとする安全確保への施設および医療従事者の取り組み
 
術後にCOVID-19感染が疑われた場合の検査方針
 
万一の病状悪化時に備え自らの治療方針を事前に意思表示できること(事前指示書:advance directive)
 
家族や友人の面会(付き添い含む)の制限と、家族やキーパーソンへの手術説明・病状説明の方法の取り決め
 
術後のオンライン外来を含めた経過観察の方法
 
退院後のマスクや手洗い、外出自粛、社会的距離確保の徹底
 
退院後、体調悪化時の連絡先と受診方法
 
COVID-19パンデミック後の外科医療は各施設において下記の5つのフェーズに分けて対応を確立することが推奨される。.
I.
術前:施設におけるCOVID-19感染拡大予防、事前指示書の相談(とくに高齢および基礎疾患を有する患者)、手術以外の医療の選択肢提示と説明
II.
術直前:患者のCOVID-19スクリーニング、術前検査項目の再評価および周術期管理の見直し
III.
術中:COVID-19感染の有無とリスクに応じたタイムアウト・人員配置・手術手技の見直し、PPEの確保、手術標本の取り扱い
IV.
術後:できる限り標準的な術後管理を遵守し、合併症の低減に努める
V.
退院後:できる限り自宅退院が望ましいが、転院する場合はCOVID-19陽性・陰性に応じた配置を要する
 
本提言はあくまでも現時点でのCOVID-19感染状況と限られた知見に基づくものであり、適宜見直しが必要であることは論を待たない。日本の高い外科医療の水準を保ち、真に必要とする患者を見極めて提供すべく、外科医として、また地域住民の健康を守るリーダーとして、最善かつ最良の判断を下すことが強く望まれる。
 
参考文献
1.
CovidSurg Collaborative, Nepogodiev D, Bhangu A. Elective surgery cancellations due to the COVID-19 pandemic: global predictive modelling to inform surgical recovery plans. Br J Surg. 2020;10.1002/bjs.11746.
2.
3.
Joint Statement: Roadmap for Resuming Elective Surgery after COVID-19 Pandemic.
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/roadmap-elective-surgery
4.
Recovery of surgical services during and after COVID-19.
https://www.rcseng.ac.uk/coronavirus/recovery-of-surgical-services/